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初めてのアウトドア


Camp

僕がまだ子供だった頃は、都内と言えども練馬はまだかなり田舎で、林や畑、空き地や砂利道がいっぱいありました。近くに乗馬用の馬屋があったので家の前を馬が歩いていたり、空き地には野良犬が住んでいたり、雨の日はヒキガエルが現れたりと、動物や自然に囲まれていました。遊びと言えば、草っ原で野球をしたり、ビワの木によじ登って実を採ったり、大きな家の庭に忍び込んで池でザリガニを捕ったり、林や野原で虫捕りしたりと、まあ、すべからくアウトドアでした。 時とともにそんな練馬もベッドタウンとして都心化し、そういった自然はすっかり姿を消しました。

大人になってからの最初のアウトドア体験は、20代後半の時でした。 友人と二人で、森や山などの自然を撮影しに車で奥多摩へ行きました。キャンプ道具と言えるのはサバイバルナイフひとつくらいで、まだいっさい持っていません。普段使っている布団と毛布、冷蔵庫にあった鶏むね肉とジャガイモ、醤油とゴマ塩とバター、アルミホイル、割り箸、手鍋、バーボンを一瓶、懐中電灯、軍手、サバイバルナイフ、そしてZippoのライター用オイルを愛車に積み込み、出発しました。 スマホなんて便利なものもまだありません。地図も持たず、とにかく西へとあてもなく車を走らせました。


山奥へ

僕の車は日産のテラノというジープ型の四駆だったので、かなり荒れた山道でも入って行けまました。「ここ道か?」というような所を見つけては登って行き、行き止まってはバックで引き返し、そんなことを繰り返して、どこかいい場所はないか探しました。

すっかり日も暮れた頃、「ここかな?」という場所を見つけました。
道なき道を渓流沿いに登って行くと、少し開けた場所に出ました。小さな山の頂きで、鬱蒼とした林に囲まれた草地です。車のエンジンを切り、僕らは外へ出ました。とにかく静かで、星がきれいでした。
水を持って行かなかったので渓流沿いを登って来つもりが、水場はどこにも見当たりません。どうやら渓流を通り越して源流の先にまで来てしまったようです。季節は3月の終わり頃で、まだ積雪がだいぶ残っていたので助かりました。これで水には困らない。

そこらへんに落ちている枝を拾ってきて焚火しようとしましたが、木は湿っている上にアウトドア素人、そうやすやすと火がつくわけがありません。こんなこともあろうかと持って来たライター用オイルをぶっかけてひたすら何度も試みますが、ぜんぜん駄目です。車の中にたまたま雑誌があったので、破って火をつけます。オイルもかけているので火は盛大に大きくなりますが、それが燃え終わるとすぐに消えてしまい、何度やっても木は燃えてくれません。火器は何も持ってきていないので、調理をするにも暖をとるにも焚火に頼るしかないのに、まったく着いてくれません。
友人を誘ったのは僕で、申し訳ない気持ちと焦りでいっぱいでした。
「あれ? くそっ。着かない。だめだ……。着かないや」
「うん。なかなか着かないね」
でも、友人は不機嫌な顔一つすることなく、微笑んで見ていてくれました。
けっきょく火を熾すのに一時間近くもかかりました。


Camp

なんとか焚火も出来、落ち着きました。これでやっと調理出来ます。アルミホイルに鶏むね肉を乗せ、バターと醤油とゴマ塩をかけて包み、ジャガイモはそのまま包んで焚火へ放り込みました。
今でもその味を覚えています。腹ペコだったせいか、今まで食べたどんな高級料理や絶品料理よりも美味かった。今でもその味が忘れられません。
後に何度も同じ料理を試みましたが、何かが違う。再現出来ません。おそらく、もう一生あの味には辿り着けないのだと思います。

食後は焚火をはさんで二人でバーボンを飲みました。夜はかなり冷え込んだはずなのに、寒かった記憶がありません。覚えているのは、焚火と森の静けさ、満天の星と、揺らぐ炎に照らされた友人の顔だけです。
しばらくそんな時間を過ごした後、テラノのバックシートを倒してフラットにし、そこに布団を敷いて車中泊しました。

翌朝、辺りは朝靄に包まれていました。神秘的な風景の中、冷たい朝の空気が気持ちよかった。草木の擦れるかすかな音と、時おり静かに一声鳴く鳥の声だけがこだましていました。
日が昇ってくると靄も晴れ、林の向こうに山々が見え始めえました。昨日ここに到着したのはもう夜だったので、こんな景色が正面にあるとは知る由もありません。ここへ来た一番の目的は撮影です。まさに自然からの贈り物でした。
これを逃してはいけない。僕は車から撮影機材を下ろしました。三脚を立ててビデオカメラを乗せ、アングルを調整。Recボタンを押しました。
何故かとても引き締まった気分でした。ファインダーの中では、山々の頂きをかすめるように雲がゆったりと雄大に流れています。そのまま20分ほど撮影し、次は空にカメラを向けて20分、他にも林や木々や草や花など、いろいろ撮って撮影は終了。山を後にし、友人を送り、帰宅しました。

一緒に行ったその友人は、buddhastick transparentという二人組グループのミュージシャンでした。
山で撮ったその映像は編集し、BGMにその友人の曲を使用させてもらって作品にしました。環境映像のようなアンビエント系のアート映像です。
映像作品はその後、三人展(僕が映像、その友人が音楽、もう一人の友人がインテリアデザイン)という形で、青山のギャラリー、IDEEの第一回エキシビジョン、渋谷BEAM B1ギャラリー、そして知人のお誘いで伊勢丹美術館でも展示させていただきました。
残念ながらVHSテープでしか原盤が残っていないので、お見せすることは出来ません。

映像を撮るという目的で、無謀にもこんなかたちで山へ入ったわけですが、今思えばとてもいい経験です。
こうした数々の失敗と寛容な友のおかげで今の僕があります。
コウシくん、ありがとう。


buddhastick transparent

buddhastick transparentは、当時、東京では知る人ぞ知る有名なアンビエントのグループでした。
90年代、Clubのchill outルームを拠点に活動し、曲がPARCOのCMに起用されるなど様々な場で活躍しました。
CDは4枚出していて、そのうちの3枚を僕がプロデュースさせていただきました。
でも当時はアンビエントなんて言葉すら知らない人も多い時代、買ってもらうのはなかなか大変でした。
せっかく素晴らしいCDが作れたのに。ダメなプロデューサーです。



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