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今思えば恐怖体験


Camp

それは、2017年10月8日(日)から10日(火)にかけて二泊三日のキャンプ、二日目の夜のことでした。
行きたいキャンプ候補地が3つありました。
 1. 山梨の「一ノ瀬高原キャンプ場」
 2. 栃木の湖畔にある某無料キャンプ場(あまり知られていない静かな所なので、名は伏せておきます)
 3. そして長野の某所(キャンプ場ではないので、名は伏せておきます)
どれも4時間以上かかるので、まずは近場の無料キャンプ場で一泊し、天気を見てどこへ行くか決めるつもりでした。


1日目 10月8日(日)

群馬の「角淵キャンプ場」へ。
出発が遅くなってしまい、到着したのは夜でした。
連休中の日曜ゆえ、沢山の方々がキャンプしていました。
全部で20組くらい。
ここは広いので、それだけいても奥の林はがらがらです。
暗い中、場所を選んでチャチャっと設営。
ハンモック泊です。

2日目 10月9日(月)

翌朝、7時半起床。空は晴天。
夜の最低気温は17度でした。
寒さに体を慣らすためと冬装備のテストという目的もあったのですが、思いのほか気温は下がらず、Tシャツと上着だけで過ごせました。

すぐ出立するので、朝食は温めたアンパンとコーヒーです。

シュラフやタープを乾かしつつ、どの候補地へ行こうか考えました。

3つの候補地のうち一ノ瀬も栃木の湖畔も、道が凍結さえしなければ、まだ今年中に行けます。
長野の某所は一番北にあり、標高は1823m。遭難者も出ている一番ハードな所です。今を逃すともう行けなくなってしまいます。
ってんで、長野の某所に決めました。

「倉渕温泉」

草津街道を走っていると、林道沿いに小さな温泉を見つけました。
入浴料:大人、600円
▷http://www.kurabuchionsen.com/

汗と疲れを落としてさらに北へ。

志賀草津高原道路を抜けて万座。
素晴らしい紅葉とワインディングを楽しみながら、万座道路から長野県道112へ。

進んで行くと、ガードレールもない山肌の一本道に出ました。
車一台がぎりぎり通れるほどです。

さらに進むとこんな道。

某所へ到着。午後3時頃でした。

ここはキャンプ場ではなく、ただの景勝地です。
管理棟もなければトイレも水場もありません。
近くにスーパーやコンビニなんぞも皆無。
まったく何もない、ほとんど手つかずの地です。
絶景を見に訪れた方々やラジコン・グライダーをやりに来た方々が数人いました。

地元のおっちゃんが話かけてきてくれました。
「もしかして泊ってくの?」
「ここって泊ってもお邪魔じゃないですか?」
「ぜんぜん大丈夫。夜は誰も来やしないからさ。でも寒くなるよー」
「そう思って冬装備持ってきたんで、大丈夫です」
「ははは、そうか! 気をつけてね」
「はい。ありがとうございます!」

こんな具合にタープを設営しました。
日暮れ前にはみんな続々と去り、僕一人になりました。

ここは東西に伸びている尾根で、標高は1823m。
両側が谷になっており、北と南に雲海が望めました。
いやはや、何とも凄い所です。

日が落ちると、辺りはもう真っ暗です。
360度、遠方にすら、灯りはただ一つ見えません。
角淵から持参した枝と落ちていたわずかな枝でいち早く火を熾しました。

7時半の時点で気温はまだ14度ほどありましたが、次第に風が強くなり、気温も下降の一途です。
リフレクターがいい具合に機能してくれました。

晩飯はインスタントラーメン


おつまみはチーズとじゃがりこマッシュポテト

薪が燃え尽きるのを待ち、寝袋に入りました。
焚火を消すとまったく音がありません。
そうなると、ほんの小さな音に体が敏感になります。
カサ……。
パサ……。
パタパタパタ……。
風になびくタープや、タープが擦れる音。
自分の呼吸音ですら気になります。

で、寝袋に入っていて、ふと気付きました。
「あ、もしかして、この辺って熊いるかも?」
ここはキャンプ場ではないんで、「熊出没注意」なんてご親切な看板はありません。
数日前にテレビ番組で、2,500m以上の高山へも熊がエサを求めて登って来るというのを見たばかり。
ここは半径5キロ圏内には人っ子一人いない場所です。うかつでした。クマ対策など何もしていませんでした。
とりあえず寝袋の横に斧とスチールペグを置きましたが、気分は「まな板の上のコイ」です。
そんな状態ですから、簡単には寝付けません。

やっとウトウトし始めた矢先、突然バサバサバサッと大きな音がしたので飛び上がりました。
見ると、出入口のタープがはためいています。突風にあおられ、ペグに止めていたループが外れていました。
時間は夜中の1時半。急いで寝袋から這い出て、ペグを打ち直しました。
あまりに霧が深く、ヘッドランプで照らしても5m先が見えません。前後右左灰色の世界。五里霧中とはこのことです。

風が吹き荒れる中、他のペグも全部確認し、突風にも耐えうるように石を乗せました。
30分以上もかかってしまった。

とりあえず中に戻って寝袋へ。
少し疲れたので睡魔がやってきてくれました。
で、ウトウトしていたら、来訪者が。

遠くでなにやらエンジン音。
風の音以外ほぼ無音状態なのではっきりと聞こえました。バイクが一台、遠方から峠道をこちらに向かって昇って来ています。少しづつ少しづつ、ワインディングしながら確実に近づいて来ます。時間は夜中の2時半でした。
夜中なので景色なんてまったく見れません。おまけに濃霧。気温は10度を切っています。ここに来る意味がわからん。
顔を出して挨拶でもしようか迷いましたが、面倒臭いので寝たフリをすることにしました。
真っ暗な中、耳を澄ませていると、エンジン音は僕のタープの近くまで来て止まりました。
サイドスタンドをかけ、ザッザッザッと足音が。タープのすぐ外を横切り、しばし無音。
そしてまた横切り、再びバイクに乗って去って行きました。
エンジン音からしてオフロード車じゃないのはわかりました。けっこう重低音だったので、大型バイクなのは間違いありません。そんなバイクで夜中にダート道を走るって、どんだけMなんすか。
こんな所で野営している僕も変態ですが、夜中の2時半に一人で来てただ帰るだけなんてもっと変態です。
スゲー奴がいるもんだ。ドMの勇者は5分ほどで去って行きました。
驚嘆と疑問が残る中、いつの間にか熊への恐怖も突風への不安も消え、おかげで爆睡出来ました。

3日目 10月10日(火)

翌朝、7時半起床。
朝7時半で、まだこの濃霧です。
昨夜はどれほどだったか、ご想像いただけると思います。

昨夜の来訪者ですが、正直ぜんぜん怖くはありませんでした。
僕は15の時から武道をやっているので、人に対する恐怖をあまり持っていないからです。特に相手が一人であれば、何とかなります。
それよりも「熊が来るかも」ってことの方がよっぽど怖かった。

後日、このことを友人に話したら、こう言われました。
「いや、お前。それって、もしかして人間じゃなかったんじゃない?」
「……」
言葉を失いました。そう言われるまで、そんなこと想像もしてませんでした。
「いやいやいや。でも、あんなにはっきり音してたし。存在してたし」
「だって夜中の2時ってちょうど丑三つ時だろ。間違いないね。たぶん人じゃなかったんだよ」
「……」

確かに、あの濃霧と寒さの中、ダート道を夜中にバイクで走るのはどう考えてもおかしい。
エンジン音のすこぶるいい大型バイクに乗るような上級者ならば、特にそんなことはしない。初心者なら、なおさらです。
もしするとしても、夜中&濃霧で何も見えないのに、あそこまで来る必要がない。
考えられる可能性としては、こちらの灯りを見つけて確かめに来たくらいだが、2時間以上前には消灯しているし、目の届く範囲に民家や宿はいっさいありません。あんな濃霧の中をわざわざ30分も走って確かめに来るなら、僕なら車を使います。この辺りに住んでいる人なら、バイクしか持っていないなどありえないし、地元の人であればなおさら、あんな危険な状態では走らないはず。もし救助が目的なら、怪我人を乗せられないバイクで来るのはありえない。
考えれば考えるほど、考えたくない方向へと行き着きます。

あの時、寝たフリをせずにタープを開けていたら……。
もしあの時、突風のせいでタープをフルクローズにしていなかったら……。
ボロボロに破損したバイクと血みどろの男が立っていて……。

ぎゃ〜! もう考えない考えないっ!
とにかく無事に帰って来れてよかった〜。本当によかった〜。

今はそう思いますが、あの翌日の僕はそんなこと微塵も頭にありませんでした。
日が昇ってくると霧も晴れ、南北に広がる絶景を前にウッキウキの朝食です。知らぬが仏とはまさにこのこと。

北側の景色


南側の景色

朝食はホットチョコレートとツナサンドと目玉焼。
デザートには牛乳寒天。

ゆっくり撤収し帰路に着きました。

帰り道、道の駅「草津運動茶屋公園」で昼食。

上州名物「ひもかわうどん」(700円)
絶妙な食感の幅広麺に出汁の効いたつゆ。
疲れた体に染みました。

ということで、無事に帰還。
一生の思い出になる色濃い経験が出来ました。

濃霧の夜、遠くから近づいて来るバイク音にはご注意を。



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